人が生きていくためには、さまざまな力が必要です。今回は、そうした力を「人間力」と呼び、伸ばすことを勧めた『学力も人間力も伸ばす子育て』(学陽書房刊)の著者である中井俊已さんに話を聞きました。
――中井さんは「人間力」を伸ばすことを訴えていますね。「人間力」とはどのようなものでしょうか。
たとえば、「前向きに生きる力」「困難に立ち向かう力」「人と上手にかかわる力」「楽観的に生きる力」などです。これらは、社会に出ると、ある意味で学力よりも問われることの多い大切な力です。
日ごろ、大人の関心は、どうしても学力にいきがちです。もちろん学力も大切ですが、あくまで人間としての能力の一部であることを忘れてはならないと思います。
子どもたちの学力だけを伸ばすのではなく、私たち大人は、こうした「人間としての総合的な力」を伸ばしていけるように接していくべきでしょう。この「総合的な力」を、「人間力」と呼んでいるのです。
――子どもの「人間力」を伸ばす接し方のポイントは。
自身がプラス思考で生活し、プラス思考で子どもを見ていくことです。
「認めて、ほめる」ことをくり返す中で、子どももプラス思考になっていきます。プラス思考の子は、失敗したときも、それをバネにするたくましさを身に付けることができます。これは、自立につながっていきます。
「認めて、ほめる」ことの出発点は、子どもがどんな状態にあるときでも「大好き」であることを伝えることと、できるだけ笑顔で働きかけることだと思います。
――具体的な取り組みも数多くアドバイスしていますね。特に取り組みやすいものはありますか。
「あいさつ」と「後片付け」でしょうか。あいさつは、人と人が心を開き合う行為であり、互いの関係をよい方向へ進める力をもっています。人間関係をつくる基本であるあいさつは、親が模範を示していく最たるものですね。
おもちゃなどの片付けをする、靴をそろえる、いすをしまうなど、生活面をきちんとする習慣は、「物事を最後までやり通す」という責任感をはぐくんでいきます。
――「偉人について教えよう」とも呼びかけています。
世界的な偉人について、身近な存在として語ることはとても大切です。偉人の素晴らしさ、その「人間力」の一部を、子どもが自身に取り入れることを学んでいくからです。
このときの注意点は、「説教をする」「教え込む」ように語らないことです。親自身も一緒に学び、ともに努力していこうという姿勢をもって接していくときに、子どもも自然に受け入れていくからです。
――「最近の子は夢をもっていない」と言われていることについても言及しています。
「将来をあきらめている」「何をしたいのか分からない」「疲れている」などの指摘がありますが、私たちが心掛けるべきは、何よりも「子どもの夢を否定しない、バカにしない」ということです。
これは、何の気なしにしてしまうことがあるので、いましめていきたいですね。子どもは、大人には現実的でないと思える夢をたくさんもちます。しかし、言うたびにそれを否定されたのでは、夢のもちようがなくなってしまいます。
現実的でなかったとしても、安易に否定するのではなく、むしろ「それを達成するためにどうすればよいか」を一緒に考え、「あなたの夢を応援している」との姿勢を示していきたいものです。ノ また、自分の夢をバカにされると、子どもはそれを敏感に感じ取ります。夢をバカにされたと感じた子は、努力をしなくなりますので、悪循環です。
――著書で、「一緒に祈る」ことを勧めていますね。
はい。ただしこれは、かならずしも特別な信仰をもつことを勧めているわけではありません。たとえば、朝、起きたときや出掛けるときに「家族みんなが、楽しい一日を過ごせますように」と、また、夜、寝る前に「明日も、みんなにとってよい日となりますように」というように一緒に祈っていくことは有益だと思います。
一緒に祈ることは、親子がいつものように相対しているのではなく、同じ方向を向き、一つの目的に向かう時間になります。また、何かに祈り、畏敬の念を払うとき、人間は謙虚になることができ、素直に感謝することができます。
これは、思いやりの心をはぐくむことにつながるのです。わずかな時間であっても、親子の心のふれ合いをつくり、子どもの人間力を育てる大切な取り組みになることでしょう。
いずれにしても、人間力は、人間からしか学ぶことができません。まずは私たち大人が、特に身近にいる親が「人間力」発揮するLモデルMになっていけるよう、努力をしていきたいものです。
プロフィール
なかい・としみ 1959年鳥取県生まれ。長崎大学教育学部卒業。長崎県内の私立小・中学校に22年間勤務し、日々、子どもたちの指導にあたっている。教育や人生に関する執筆・講演活動にも幅広く活躍中。著書に『子どもの「生きる力」を伸ばす本』(PHP研究所)、『夢をかなえる心のレッスン』(グラフ社)、『思いやりを育てるしつけ51のヒント』(学陽書房)など多数。 聖教新聞 8月19日 文化面